パンと一緒のおいしい時間~あんぱんラプソディー~
「最初はナニが入っててるのかオドロキマシタ。クロクテアマイのです。」とは、ワルン・ロティのあんぱんを買ってくださったお客様のイギリス人紳士。
外国では豆は野菜の一つなので、「豆がアマイノはユルセナイ」と、話には聞いていたのですが、日本の和菓子は世界に知られている時代ですから、すでに昔話だろうと思っていたのですが・・・・・・
そういえば、ヨーロッパのパン屋であんぱんを見かけたことはありませんでしたし、こちらはもう十年は前のことですが、インドネシアで一見してあんぱん風のパンを見つけて買ったのに、中身はココナツの砂糖煮でがっかりしたことも。
「あんぱんは日本のこころ」なのだそうです。日本人はあんぱんを食べるとホッと心が和むのだという人の言葉に、そうなのかもしれないなあと、このごろ感じてます。
ワルン・ロティでもあんぱんは大人気なのです。そして、お客様のアンへのこだわりは頑固です。コシアン派はコシアン、ツブアン派はツブアンのあんぱんしか買いません。「どっちでもいいわよ。おいしいから。」などと言ってくださるお客様は本当に少ないのです。なかには、「僕はアンコも自家製のパン屋のパンで無いと買いません!」と、宣言をしてなにも買わずに帰ってしまったお客様もありました。
国産の小麦や自家製酵母にこだわっているからでしょうか、アンコも手づくりだと思ってくださる方も多いのです。が、パンを焼いて十五年となりますが、基本的には不器用な私が「アンコを練って何十年」という職人の腕にかなうはずはありません。
もともと、粉と酵母のシンプルなパンを主に焼いていたワルン・ロティでしたが、お客様の「柔らかくてあま~いあんぱんリクエスト」の多さに応えよう!と意を決した日から、とびきりおいしくてひと口で味の違いの判るアンコを探そうと考えていました。
そしてたどり着いたのは、十勝産小豆と砂糖と塩だけで炊いたピュアなアンコでした。決め手はツブアンのツブのツヤツヤ。見た目の照りにも舌触りにも、小豆一粒のツヤがツルツルと伝わるのです。その店のコシアンのコクと濃密さも気に入りました。
電話口でそのアンコ屋さんが話してくれました。十勝平野は日照時間が長く、昼と夜の温度差が激しいのでとびきり糖度の高い小豆が穫れるのだと。けれども小豆も自然の農作物、その年のお天気によって出来不出来が決まります。ですから、アンコも毎年同じ品質、そして価格を維持してゆくのは努力がいるのです、と。
昨秋には、隣の区から、いまでも井戸水を使ってアンを炊く職人さんと家族で営むアンコ屋さんが訪ねてくれました。おかげで秋には焼き栗、冬は柚子、春は桜、初夏は抹茶と季節アンのあんぱんも大好評になりましたが、ツブアンは以前として十勝のアンコ屋さんです。けれど隣の区のコシアンもまた水の甘さを感じるほど上品で・・・・・・。
さて、コシアンはどちらにしたものか・・・・・・あんぱんのアンに思案しているのでした。
大和田 聡子(おおわだ としこ) 東京都生れ
小麦育種家の父の影響で幼少からパンに親しむ。30歳を過ぎて父の開発にかかる岩手産「コユキコムギ」を使って独学でパンを焼きはじめ、2003年5月、目黒区洗足2-8-27の自宅の一角でナチュラルパン工房「ワルン・ロティ」を開く。チーズやワインにも造詣も深く各地で講師を務めるとともに、異色の創業者としてマスコミ等にも多数登場。著書に『自宅でパン屋はじめました』(河出書房新社刊)。
http://www.warungroti.com/
