パンと一緒のおいしい時間~ライ麦種のバカンス~

夏のバカンスはどこかへゆかれましたか?私とライ麦酵母は伊豆の海へゆきました。
自家製の天然酵母にもいろいろありますが、ワルン・ロティでは、干しぶどうを使った果実種と、ライ麦粉を使ったサワー種の二種類をつくっています。
干しぶどうを使った種の作り方は以前お話したとおり、水に漬けた干しぶどうから五日程かけて毎週新しくつくっていますが、サワー種も手のかかる甘えん坊。まるでぬか床のように毎日かき混ぜないといけません。十年経って良い香りの種に育っています。
そのサワー種の作り方を伝授してくださったのは、ご近所にあった店のパン職人さんでした。娘をベビーカーに乗せて通っていたのです。
まず、ライ麦粉百グラムと水百グラムを容器に混ぜて、お味噌みたいなペーストにし、暖かいところに置きます。一日経って、ペーストの表面がポッコリと盛り上がり、カルメ焼きのようにひび割れていると合格。空気中と粉に住む酵母の働きです。
その中心からスプーンで一杯分すくいとり、新しくライ麦粉百グラムと水百グラムを混ぜた容器に加えて、また一日待ちます。翌日それもポッコリ膨らんでいたなら、また新しくライ麦粉百グラムと水百グラムを混ぜた容器にスプーン一杯分を取り出して加えて・・・・・・この「採って混ぜる」作業を繰り返して七日目にバルサミコのような甘酸っぱい香りを放っていたら、サワー種のできあがり。もしも、ぬかみそっぽい匂いがしていたらダメ。始めからやり直しです。
実は私も一度目は見事に失敗。どうひいき目にみても良くない匂いに泣く泣く捨てました。考えてみたら、サワー種で焼くライ麦パンは乾燥して涼しい国のアイテム。もしや、湿気と暑さで発酵の進みが早いのかしら?と推測して、二度目のチャレンジでは「採って混ぜる」間隔を短くして半日ごとに「採って混ぜる」を繰り返してみました。果たして一週間後、酸っぱいような甘いような香り”今度こそ成功です。
中身を取り出した後の残ったペーストは捨ててもいいよ、と言われたのですが、もったいなくてとっておいたので、完成までにちいさな赤いバケツが十四個並びました。
できあがった最後のバケツの種はガラスの密閉瓶に移して冷蔵庫で保存します。ここから一日一回スプーン一杯分を採って「一日一回限定カンパーニュ」のパン種にしています。あとには、採りだした分と同量の新しいライ麦粉と水を混ぜたペーストを加えておくと、いつも同じ量の種が熟成を重ねてゆきます。
でも、たとえパンを焼かなくても、この「採って混ぜる」を一日怠ると種はダメになってしまいます。そこで、旅行先にもクーラーボックスで連れてゆくのです。必須なのは、宿の冷蔵庫が使えるかどうかのチェック。そうして伊豆へ行ったら伊豆の水で、京都へ行ったら京都の水でペーストをつくり混ぜるのです。海外旅行?それは家人が頼りです。「一日一回忘れずに!お願いね~」と冷蔵庫に張り紙をして。
大和田 聡子(おおわだ としこ) 東京都生れ
小麦育種家の父の影響で幼少からパンに親しむ。30歳を過ぎて父の開発にかかる岩手産「コユキコムギ」を使って独学でパンを焼きはじめ、2003年5月、目黒区洗足2-8-27の自宅の一角でナチュラルパン工房「ワルン・ロティ」を開く。チーズやワインにも造詣も深く各地で講師を務めるとともに、異色の創業者としてマスコミ等にも多数登場。著書に『自宅でパン屋はじめました』(河出書房新社刊)。
http://www.warungroti.com/
