パンと一緒のおいしい時間~ババコウ・ジャムはミラクルなお味~

ババコウというフルーツをご存知ですか?アンデス高地生まれの黄色いフルーツで、色、形はパパイヤですが、なんと大きさは十倍くらい。よちよち歩きの少女がだっこするとおかっぱ頭が隠れてしまうほど。
この謎のフルーツに出会ったのは、伊豆の下田の「おく農園」。町から車で十五分ほど入り込んだ森の中にあるこの農園では、季節のフルーツから十三種類のジャムを造り、私のパン屋にも置かせていただいているのです。
きっかけは、その前の夏にファミリーで海水浴に行った時のこと、涼みに入ったホテルの売店で「桑の実ジャム」をみつけました。桑の実と聞いて、紫に染まった手のひらを思い浮かべていただけたなら、きっと私と同じようにどこかの野道で桑の実を食べたことがある方でしょう。
桑の実は、盛岡市の北はずれの厨川で育った私の、夏の初めの小学校帰りの楽しみでした。桑の木にたわわに揺れる小粒の熟れた実をもぎ、口にほおばりながら帰ると、家に着く頃には手は真紫!ぶらぶら道草をしていた証拠はしっかりと手のひらにありました。
そんな懐かしい桑の実のジャムがあるなんて!と、さっそくパン屋にジャムを置いてもらいたいと願い、去年の夏、「おく農園」を訪ねたのです。そこで、またビックリ。
いただいた住所には、うっそうと森林が茂り、サワサワと勢いのよい水音が聞こえるのは、樹木に覆われた谷底に渓流があるようです。その水音に負けじとおびただしい蝉の声が合唱しています。ようやく木々の中に黒光りする瓦屋根と、草木を分けてそこへ上る小道をみつけました。小道の途中にビニールハウスがあり、人の背丈ほどの木から、大きな緑の葉っぱと、巨大な黄色い実が突き出ています。それがババコウでした。
「お昼まだでしょう?」と、用意して下さったカレーライスをいただきながらお話を伺うと、ババコウの苗木は原産地エクアドルから、ニュージーランドを経由して日本に到着し、二十年ほど前に「おく農園」が日本で最初に栽培に成功。珍しさから引き合いが多い時もあったけれど、そうは売れず、困っていたのを試行錯誤でジャムに完成させたそうです。
先代が飼っていたという蚕用の棚を残したままの天井の黒く太い梁を見あげながら、穫ったばかりのババコウをいただくと、手に汁が垂れてくるほどジューシー。淡いオレンジジュースのよう。ビタミンCがたっぷりでたんぱく質分解酵素を含むのでお肉を食べた後の消化を助けてくれるとか。
お土産に、といただいたババコウはまあ、なんと重いこと。二キロ弱はありそう。いまにもジュースが滴りそうなのをそおっと持って帰ったものの、我が家の冷蔵庫に収まらず、「おく農園」に倣ってあわててジャムにしてみました。プロにはかなうはずもなくレシピはやみくも。皮を剥いたババコウと同量のグラニュー糖を鍋に入れコトコト。あま~い香りが漂ったところで、「ショウガ汁を入れてみよう」と思い立ち、さらに弱火でコトコト。さて、出来上がりはいつかしら?と判らぬままに、火を止めてビンに詰めたジンジャー風味のババコウ・ジャム。ちょっと煮詰めすぎたのか、べっこう飴みたいになってしまいましたが、お味はハイカラでしたよ。
大和田 聡子(おおわだ としこ) 東京都生れ
小麦育種家の父の影響で幼少からパンに親しむ。30歳を過ぎて父の開発にかかる岩手産「コユキコムギ」を使って独学でパンを焼きはじめ、2003年5月、目黒区洗足2-8-27の自宅の一角でナチュラルパン工房「ワルン・ロティ」を開く。チーズやワインにも造詣も深く各地で講師を務めるとともに、異色の創業者としてマスコミ等にも多数登場。著書に『自宅でパン屋はじめました』(河出書房新社刊)。
http://www.warungroti.com/
