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パンと一緒のおいしい時間その36 ~チーズは太らない、というけれど・・・~

文と絵 大和田 聡子

イラスト 「い~しや~きぃ~も~、焼き芋~」と、ほらほら聞こえてきましたよ。冷たい風に乗って、甘い誘惑のかけ声が。急いで財布をつかんで、ズックをつっかけて、声を追いかけ
ます。 胸に抱いたあつあつの焼き芋をパカッと半分に割って……実は、クリームチーズを落としてカブリつくのが好きなんです。
 「それで、ダイエットが趣味なの?」なんて笑わないでくださいね。ご存じでしょうか、焼き芋にチーズで、完全栄養食になるんですよ。
 なにしろ、チーズは栄養満点。お餅ひとかけぐらいのチーズは、牛乳ビン一本分のミルクをぎゅうと凝縮させたものですから、もちろんカルシウムはたっぷり。さらに、皮膚や粘膜の健康を保つ「ビタミンA」が、緑黄色野菜より多いと聞けば、「お肌つるつる効果」も期待できます。
 けれども、そんな優秀なチーズにも欠けている栄養素があり、それは、ビタミンCと繊維だそう。ですから、それをプラスすれば、完全栄養食で怖いモノなし。サツマイモには、ビタミンCと食物繊維がたっぷりですよね。
 それから、もう一つ、忘れてはならないポイントは、チーズに豊富な「ビタミンB2」。体内で脂肪を燃焼させ、からだの中に蓄積させない働きをしてくれるそう。だから、チーズを食べている人は、食べていない人に比べてスリムだという説もあります。
 それだけの能書きが味方してくれるなら、安心安心と、ついつい二本目のお芋にチーズをのせて……は、さすがの効能も退散ですね。
 さて、チーズは、パンとワインと同じように古代メソポタミアで誕生したといわれています。四千年以上も前。ひとりの商人が、羊の胃袋を干してつくった水筒にミルクを入れて、ラクダに揺られて旅をしていたら、いつのまか水筒のミルクが固まって、おいしいチーズになっていたとか。
 ミルクの乳酸菌と、羊の胃袋からしみ出たミルクを固める酵素、そしてラクダの適度なゆらゆら……。これが、チーズをつくったといわれます。
 子羊や仔牛の胃袋には、ミルクを固める酵素「レンニン」があって、それは、もともとは赤ちゃん羊や赤ちゃん牛のため。おかあさんのおっぱいからもらったミルクを、胃袋でやわらかく固めておいて、少しずつ消化の良いアミノ酸に分解して吸収してゆくのを助けているのです。
 あかちゃん牛たちを育てるチーズですから、栄養たっぷりなのはあたりまえ、たんぱく質もビタミンも脂肪もバランスよく含まれています。
 ですから、チーズの歴史が深い国では、常にチーズは「命の薬」として大切にされてきました。
 先日、日本酒が大好きな方から、おつまみに、貝割れ大根とチーズを海苔巻きにするとおいしいよ、と話してくれました。海苔は、繊維がたっぷりなのは知っていましたが、ビタミンCも多いのだそうです。ということは、やっぱり完全栄養食。お燗したお酒においしそう。
 そういえば、子どもの頃、母はよく、お餅とチーズの海苔巻きをつくってくれました。焼いたお餅に醤油をからめ、スライスチーズと海苔で巻くだけですが、やはり母も栄養を考えてくれたのでしょうか。


大和田 聡子(おおわだ としこ) 東京都生れ
小麦育種家の父の影響で幼少からパンに親しむ。30歳を過ぎて父の開発にかかる岩手産「コユキコムギ」を使って独学でパンを焼きはじめ、2003年5月、目黒区洗足2-8-27の自宅の一角でナチュラルパン工房「ワルン・ロティ」を開く。チーズやワインにも造詣も深く各地で講師を務めるとともに、異色の創業者としてマスコミ等にも多数登場。著書に『自宅でパン屋はじめました』(河出書房新社刊)。
http://www.warungroti.com/